京都四条烏丸、滋賀栗東小柿。不妊症、突発性難聴、円形脱毛症、顔面神経麻痺、各種運動器疾患で本院新患5,305人(2023末)、年8000人以上の施術実績。

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着床率、妊娠率の向上

  胚盤胞を移植した際、その胚盤胞は紛れも無く生きています。それがなぜ子宮に入った途端に、生命活動を停止してしまうのでしょうか。もしくは子宮との連絡が絶たれてしまうのでしょうか。染色体異常という原因は避けては通れませんが、Rh因子の不適合流産から見られるように、免疫の異常反応が一定含まれることは、定説となっています。しかし、例えば花粉症という敵がわかっているアレルギーですら、今なお抗原をブロックしたり、マスト細胞の破綻を防ぐ医薬が開発されていないのですから、子宮という閉ざされたところで起こっている免疫反応が解明され、その対処法が見つかるのはどれほどの時を待たないと行けないのでしょう。しかも、それが解明されたからといって、ひところ行われていた配偶者リンパ球移植といった冒険的な方法から更に強力な方法に進化した時に、副作用はないのか、とても慎重にならざるを得ません。相手は子宮内に存在する赤ちゃんの基なのですから、実験的な失敗は許されません。生殖専門医らも、安全性と効果の狭間できっともどかしい思いをされていると思います。

 さて星状神経節へのレーザー照射は、臨床的に様々なアレルギー疾患、自己免疫疾患に効果があることを観察しています。その対象は、化学薬品であったり、花粉などの自然界の物質であったりします。また自己免疫疾患としては、脱毛症やリウマチなどに医師も採用しています。しかしこの効果には個人差があり、効果が出やすい人と、出にくい人に別れます。しかしもともとのアレルギーに対して明らかに効果があった方は、なにかしら着床率が高いような傾向があります。

 以前、ある産婦人科から、夫婦生活を多く営む夫婦の流産率が低いというデータが出ました。これは精子が何度も子宮内を通過しているうちに、途中で崩壊する精子の断片(DNA?)に対する免疫寛容な状態が子宮に起こり、受精卵に対する免疫の過剰反応が起こりにくくなると考えていましたが、更に免疫学的な研究が進み、それは精子ではなく精漿(精液から精子を除去した上澄みの部分)に、免疫抑制を引き起こす機能があることがわかりました。下の方で詳説します。

 ところで、免疫に大切な役割を担う細胞がいくつかあります。代表的なものを挙げると、NK細胞、マクロファージ、T細胞、B細胞、樹状細胞、などなど。この中でT細胞に、レギュラトリーT細胞(T reg)というものが発見されました。これは坂口志文(大阪大学免疫フロンティア研究センター)氏がとてつもない時間をかけて、サプレッサーT細胞とは似て非なるこのT細胞の存在を証明したのです。このT regは、日本語で制御性T細胞と呼ばれています。ここでなぜ、この細胞にこだわるのかといえば、坂口氏のたゆまぬ努力に尊敬の念を抱かずにはいられないこととは別に、氏がここに着目したきっかけが「妊娠という非自己細胞移植のメカニズム」であったからです。ということはもちろんのこと、この制御性T細胞が妊娠に大きく関わることは言うまでもありません。

 前に子宮内に配偶者のリンパ球移植について、少しだけ触れましたが、神はここでも私達の生殖に手を差し伸べてくれていたのです。精液は分離すると精子と精漿(精子を含まない上澄み液)に別れます。この「精漿」には実は大きな働きがありました。精漿が子宮内に入ると、子宮内で父親抗原特異性制御性T細胞が増殖し、妊娠における免疫寛容を引き起こしている可能性が極めて高いことが示唆されたのです。しかもあの殺し屋NK細胞の細胞ですらCD25を表面に備えて制御性NK細胞として免疫寛容にかかわっているのです。(富山大学産婦人科斎藤ら)この論文は当院にありますので、更に詳細をご覧になりたい方はお申し出下さい。

 そうしますと体外受精にしても人工受精にしても、精漿は殆どもしくは全く注入されませんから、この免疫寛容が働かないことになります。ということで何が変わるかということですが、いろんな生殖補助医療を受ける際にも、医師任せではなく自分たちで夫婦生活を持った方が着床率が上がるわけです。当院の最高齢妊娠46才の方が、胚移植前に「もうやることは全てやってきた。他になにかできることはないでしょうか」と質問されました。私は「性交渉をして下さい」とお勧めしました。「そうですね、そういう夫婦の基本的な事を忘れていました。では移植の前にします」と言われ、夫婦生活の後に移植を迎えられましたら、見事にご懐妊となったのです。この一例でもって何を証明できるわけではないですが、人としての基本的な活動が、いかに大切であるかを物語っていると思います。生殖に限らず、私達の体は、想像を超える緻密さで仕上がっていることを、こうした新たな発見の度に驚きを隠せません。

 もうひとつ、着床前診断を行った受精卵と行わなかった受精卵(共に胚盤胞)では、明らかに妊娠率が変わります。では、染色体異常が起こっている受精卵は、胚盤胞からすぐに勝手に生命活動を停止するのでしょうか。しかも子宮が受精卵の存在を感知して反応する前に。

 染色体異常胚は、何かしらのシグナル(化学物質)を出していて、それを子宮が感知すると、妊娠を拒否する(着床しない)、または中断する(流産)と考えられます。免疫反応を始めとして、生体のシグナル授受は、極めてレスポンスが早いものがたくさんあります。ですので、子宮内でこのような受精卵と子宮のやり取りが行われていても、なんら不思議ではないのです。逆に習慣性流産とは、子宮が異常胚であることを感知できず、着床を許してしまい、結果途中で妊娠が放擲(ほうてき)されてしまう可能性が否めません。

 「着床しない」という現象と「流産する」という現象は、時間的にも理論的にも極めて隣接している部分があると言えるでしょう。

 さて昨今、受精卵の染色体検査がわずかずつ普及してきています。染色体検査で異常なしと判定された胚盤胞の着床率はおおよそ70%程度と言われています。検査を受けていない胚盤胞の着床率は医療施設により差があります。それは凍結基準や、通院者の年齢層に大きく左右されますので、それだけを以って医療機関の優劣を決めることはナンセンスですが、各医療機関の数字(40〜50%)よりは、やはり染色体正常胚の着床率は有意に高いのは事実です。
 しかしどうして100%ではないのでしょう。70%が妊娠するとして、残りの30%はなぜ着床しないのでしょうか。女性の生活習慣やストレス、その他いろいろな要因があると言われていますが、私たちは「免疫寛容が起こっていない」つまり「免疫的な着床障害」が一定割合を占めていると考えています。そして、一般的に65〜70%と言われる染色体正常胚の妊娠率がどのように上昇するのか、お一人お一人の妊娠の成否を、日々固唾を呑んで見守っているところです。

 ちなみにH28年の不妊鍼灸ネットワーク公開講座では、予備講座と合わせて6時間にわたる免疫学講座を担当しましたが、その最後に着床に関わる免疫の作用として

  • 胎盤の抗原性
  • 細胞膜補体制御分子
  • 免疫抑制物質
  • 遮断抗体
  • 免疫抑制細胞
  • トレランス誘導抗原提示細胞
  • Fasリガンド・TRAILの表出
  • 胎盤におけるCTLA-4分子表出
  • 胎盤におけるPD-L1の表出
  • T細胞の集積阻止

などのお話をさせていただきました。

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