顔面神経麻痺、偏頭痛、非定型顔面痛など頭部顔面部の疾患
顔面神経麻痺
顔に関する疾患でもっとも多いのは、なんといっても神経の病気です。それらには、顔面神経や三叉神経の痛み、麻痺、痙攣があげられます。その中でも最も多いのは顔面神経麻痺でしょう。この病気はハント症候群のように原因(ウイルス感染)が明らかな場合もありますが、原因が不明なものも多く、服薬などで改善しない場合に鍼灸に来られる方が多いものです。まずはデータ化できた30人の経過をグラフでご覧ください。
顔面神経麻痺30人の治療開始後の経時的変化
(左端が治療開始時のスコアを表します。右方向に月ごとのスコアの変化を表します。)
スコアは40点満点が完全正常、38点以上が完治とされ、35点程度ならほとんどわかりにくい状態です。鍼灸開始から速やかに改善される方、ゆっくり改善される方などいろいろですが、ほとんどの方に効果が表れています。発症から治療開始までが早い方が改善は早まります。ペインクリニックの分野では星状神経節ブロック(SGB)がおこなわれたりしますが、当院では危険性のない低出力レーザーと鍼灸で改善を目指します。また病的共同運動に細心の注意を払いつつ、速やかな改善を目指します。その中から、一部をご紹介したいと思います。
症例1・手術しか方法がないといわれた顔面神経麻痺(20代前半女性)
来院1ヶ月余前に、朝急に左の顔が動かなくなる。近所の接骨院へ行くが効無し。病院では1カ所目は治療できないと言われ、すぐに大きな総合病院を受診し、3週間入院して点滴と服薬をするも効果無く、退院後すぐに来院された。
初診時の症状は、水を飲むとこぼれる、目が閉じない、舌が痺れるなど。治療開始後間もなく他の大学病院を受診され、手術しか方法がないと言われた。
治療10回で表情筋が動き始め、発症前同様に二重まぶたに戻る。その後額のしわ寄せが可能になる、強い閉眼が可能になる、など徐々に良好に。治療開始から9ヶ月でほぼ正常な感覚に戻った。以後、手のしびれ等もあり時折来院されていたが、間もなく終了とした。
症例2・服薬しても悪化し続けた顔面神経麻痺(40代前半男性)
来院の2週間前に舌のしびれから発症。翌日にはまばたきができなくなる。その一週間後に最悪となる。発症直後から、ステロイド剤を継続していたが、悪化を止められず、鍼灸に来院。
初診時は顔面神経麻痺スコアは10点(40点満点)であり、眼から口にかけて広範囲な運動麻痺が見られた。他県からかなりな距離を通院されたが、治療直後より速やかに回復が始まり、 治療7回(期間3週間)でスコアは38点と正常範囲になり終了。速やかな治療開始と、密な治療頻度で早期の回復を達成できた。
症例3・薬剤による効果が乏しかった顔面神経麻痺(30代後半男性)
来院3週間前に発症。大学病院にて10日間ステロイド剤や血管拡張剤を使用するも、改善乏しく来院。
初診時、スコア10点。口が閉じない、笑えない、閉眼できないなど。治療開始後徐々に良好となり、13回(期間50日)でスコア35点まで回復し、治療終了とした。
その8ヶ月後に再び顔に違和感が出ると来院されたが1回の治療で終了。半年毎くらいにたまにケアにお越しになる。
症例4・8年前からの顔面神経麻痺の治療再開(30代後半女性)
8年前に左側顔面神経麻痺となり治療するも、当時妊娠出産が3回あり、治療を中断していた。麻痺の残存と痙攣があり、耳鼻科で勧められてMRIを撮るが、該当部位の血管が蛇行していると言われた。
来院時には、スコアは32点と左程悪くなかったが、左の頚にコリが強く、また好きなクラリネットを吹くことが出来なかった。治療6回(期間31日間)でスコアは37点に改善し、自覚症状はかなり良好となり終了。
その後、肩こりがひどくなると眼周囲に違和感を感じ時折来院されるが、悪化もせずケアのみで良好を保っている。今も疲れたり肩が凝ったりすると、たまに来院される。
症例5・神経伝達障害といわれた顔面神経麻痺(50代前半女性)
ひと月半前に舌のしびれから左顔面神経麻痺が発症。国立の総合病院を受診し、ステロイド服用するも緩解せず。次に大学病院を受診、8日間入院するも改善せず。目周囲、口周囲への神経伝達がそれぞれ4.6%、7.1%しか行われていないと言われた。
初診時スコアは13点であった。治療38回(期間6ヶ月)でスコアは33点まで改善。来院前の診断で神経伝達障害と言われ、改善の可能性が低いかと思われたが、おおかた改善することが出来た。
その後、時折不調で来院されたが、症状の再燃はなかった。
症例6・リンパマッサージで発症した顔面神経麻痺(30代後半女性)
少し前に腰痛で来院、改善された方。その後、高級リンパマッサージ(1回3万円!)を受けた直後に顔がビリビリして神経痛が起こり、その3日後に口が動きにくくなり病院へ。顔面神経麻痺と診断され薬剤の投与を受けた。病院初診時スコアは20点台であったが、投薬を受けたにも拘らずスコアが14点に低下。その5日後に当院を再診。スコアは9点になっていた。悪化の一途をたどっていたので、病的共同運動に細心の注意を払いながら鍼とスーパーライザー併用で、治療開始から1ヶ月で24点に復活。その後も治療を継続し、38点のスコアとなり終了。顔面神経の経路に相当強い圧でマッサージを受けたと思われるが、改善に3ヶ月を要した。
偏頭痛
偏頭痛(片頭痛)に悩まされる方は、実はかなり多く、日常生活に支障を来すほどの苦痛にしばしば悩まされます。病院の頭痛外来などに通院しても、服薬を止めると結局治っていないことに気付き、鍼灸に訪れる方がしばしばあります。
頭痛は、非常に鑑別が難しく、命に関わるほど重大な兆候である場合もありますが、いわゆる筋緊張性頭痛や偏頭痛に対して、鍼灸は一定程度の効果を発揮できる場合が多々あります。
そんな中から、長期間にわたる苦痛から改善された例を一部こちらで報告させて頂きます。
症例1・3年間苦しんでいる偏頭痛(20代前半男性 学生)
3年前から頭痛を感じ始め、徐々に悪化している。ロキソニンを服用するも、改善なく、現在は服用していない。発作が続く時は、1ヶ月間毎日のように痛む。少ない時でも週に1回程度痛む。この状態では勉強が手につかないと来院。
頭部、目の奥、歯、肩すべて左側の方が強く痛む。
治療3回で、やや改善を実感。
治療8回で、2割程度に改善するも、突発的に悪くなる時もある。
治療15回で、初めて頭痛がない状態が一定程度持続。
徐々に勉強が可能になってきている。
治療25回で、波はあるものの継続した勉強が可能になる。
この頃で最悪な状態でも治療前に比し6割程度。ただ、痛みが一日続くことはなく、瞬間的に断続的となる。勉強が忙しくなり治療中止。この方は今は医師として活躍されている。
症例2・仕事の継続が不可能なほどの偏頭痛(50代前半女性 看護師)
15年前から起こった頭痛が徐々に慢性的に。セデス、ロキソニン、バファリン、それぞれ効果がなく中止。 肩こりも慢性的。右半分が特に痛く、一旦痛みが始まると1週間も持続し、帰宅後にご主人に肩を揉んでもらう毎日となる。
この頭痛のために定年まで5年を残して、退職を決意されていたので、早急な改善を図らなければならなかった。治療頻度を週に2回とする。 治療約10回で徐々に良好となり、退職の必要性も無くなる。同時に膝や頚部(頚椎椎間板ヘルニア)の治療も行い、 半年間で37回の治療を行い改善を見た。最終的に、膝の苦痛は3割に減少。頭痛は消失。頚部はコリを自覚する程度となった。 その半年後、頭痛が再発したと来院されたが、2回の治療で消失し、その後も良好で終了。人づてで、定年まで職務を全うされたと聞いた。
症例3・偏頭痛と頸腕症候群の合併(40代前半女性 主婦パートタイマー)
以前より軽い頭痛があったが1年前より悪化。病院にてロキソニンとノイロトロピンを処方され常用。 頭痛の頻度は、月に15日間。一日のうち2、3回寝込むほどの痛みに襲われる。嘔吐もしばしば。
治療15回(約4ヶ月間)で、当初に比べ苦痛は2、3割にまで減少。頻度、強さ共に減り、服薬回数も激減。 このくらいなら許容範囲ということで、治療間隔を空けて行く。10日、2週間の間隔でも、明らかな増悪が見られず、一旦終了とした。 ただ、残りの部分をゼロに出来なかったのは明らかで課題が残る症例となった。
三叉神経痛
症例1・7年間苦しみ続けた三叉神経痛(90代女性)
非常にお元気なご高齢のご婦人であったが、7年前から三叉神経痛に苦しんでおられた。 大学病院に入院され、神経ブロックを受けた後、延々と通院しておられるが、最悪の状態は脱したものの、依然として6割程度の痛みが続いている。
三叉神経痛は、鍼灸でも治りにくい疾患のひとつとされている。よく治ると言われるのは非定形顔面痛と呼ばれるもので、三叉神経痛とは鑑別されている。しかし、この方は、大学病院で7年間一貫して三叉神経痛の診断のもと、ペインクリニック科に通院されていた。
来院時には、常の痛みに加えて、食事により右の額に激痛が走り、食事が非常にゆううつとのことであった。 また少し頬も痛んでいた。やはり三叉神経第1枝(及び軽く第2枝)の神経痛であると考えられる。
治療開始後5回で、明らかに少し痛みが減り始め、その減少傾向が続いたために、治療10回で7年間通院した病院の通院を止められた。治療18回で、初回に比べ痛みは3分の1に減少。 20回で痛みを忘れられる時が出現。その後治療間隔を少しずつ空けて様子を見るが、再燃の兆し無く、経過は一定となる。時々痛む事もあるが、初回比で半分以下で推移。家でふさぎ込んでいたのが、食事、散歩、旅行と非常に活動的になられた。計48回(期間1年4ヶ月)で終了とした。
非定型顔面痛、顎関節症
症例1・2年間苦しみ続けた非定形顔面痛(30代前半女性)
2年前にインプラントを受けて、直後より痛み出す。結果、歯科を5軒、歯の高さ調節を9本行ったが、痛みが寛解せず、麻酔科にて抗うつ剤を投与を受けていた。鍼灸とスーパーライザーによる星状神経節照射及び局所神経照射を併用した。治療開始から3ヶ月弱(計8回)の治療で当初の痛みの2割にまで改善。その後多少の上下はあるも、その程度で収束していた。ご結婚転居を機に2ヶ月間治療は中断したが、その後に妊娠希望で来院された時に再開し、数回の治療でほぼ完治を見た。またその後ご懐妊され、万事良い結果となった。
症例2・4年間苦しんだ顎関節症(20代前半女性)
16才の頃、突然右の顔が痛み始めた。そのまま耐えていたが、18才の時に歯科で顎関節症とのことで、マウスピースの常時装着を始めた。顎関節と舌骨のバランスを整える治療に、スーパーライザーを併用。5回の治療で、快適な日が出始めた。計9回の治療で日々の上下はあるも当初に比べると快適な日々が増え、経済的な事情もあり一旦終了した。その後、年に1、2回いろんな愁訴で来院されるが、以前のような激痛は起こっていない。