京都四条烏丸、滋賀栗東小柿。不妊症、突発性難聴、円形脱毛症、顔面神経麻痺、各種運動器疾患で本院新患5,305人(2023末)、年8000人以上の施術実績。

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育卵治療(劣化防止〜卵質向上)

採卵成績向上のメカニズムは?
〜専門的なお話〜

  さて、卵子は排卵の準備に入ると、成熟卵胞に変化するまで数ヶ月間を必要としますので、その間に卵子の質を向上させることができないかと苦慮しました。そこで「育卵」という概念に到達しました(詳細後述)。当然この研究にも、極めて根気のいる観察を要します。いわゆる後方視的観察研究(Retrospective Study)という手法ですが、過去の膨大な症例を、いろんな要素で分類分析し、それに傾向を発見し、その傾向が未来にも持続するか観察を行います。その際に治療法を更に合目的化させ、前方視的観察研究(Prospective Study)に繋げます。一つひとつの検証に最低数年間を要します。不妊症に対する鍼灸治療は、それほどの長期間の検証を必要とします。漠然とした体質改善と称して行われている治療法では、その検証すら不可能です。

 当院では不妊治療において、平成16年頃より東京医研社製のスーパーライザーという機器を使用しています。この機器は今や不妊治療のスタンダードになりつつありますが、当院が全国的な講演活動によって、知る限りだけで約五十軒の鍼灸院が導入されました。従って当院は、そのさきがけとしてもっとも長い間使用しているわけですから、治療に精査を繰り返し、有効な手法を発表し続けています。

 この機器の使用にはいくつかの目的があります。1,交感神経抑制。2,局所血管拡張効果。3,卵巣の損傷修復効果。4,自律神経免疫相関を整えること。(詳細は「不妊とスーパーライザー」のページをご覧ください。

 さて昨今、卵子の劣化における染色体異常の仕組みがいろいろと議論されています。卵子内のミトコンドリアの減少や相同染色体をバインディングするコヒーシンの機能不全が問題となっていますが、35才以上の卵子では以前より紡錘体の異常率が上昇する事が知られています(注1)。これらはすべて卵子の栄養状態の低下で起こります。従って当院では様々な手法を駆使して、卵子への有機物の供給を推し進めています。それには、顆粒膜細胞と卵子の間で分子量千以下の物質の能動輸送を行うgap junction(ギャップジャンクション)の働きが重要であり、そのために次の手法を採用しました。

  1. 卵巣血流量を有意に増加させた施鍼手技
  2. 同条件下で採卵数の増加を示した陰部神経施鍼
  3. 子宮血流量を有意に増加させた施鍼手技
  4. 上記の効果を最大限に増幅するためのスーパーライザーの活用
  5. 刺激に対する慣れを除去する施鍼方法

 これらの基礎研究を基に、一人ひとりに最適な方法を組み合わせます。

 さて現在特に重要視されているのが、卵子内ミトコンドリアの減少です。ミトコンドリアは全ての細胞に含まれていますが、これは特殊な細胞小器官で、太古の頃、原核生物が真核生物に寄生したのが始まりです。つまり彼らは私たちの体の中で勝手に住んでいるのです。腸内在菌もそうですが、腸内は外界と通じていますが、こちらは細胞内部ですのでまったく閉ざされた系の中で、母から子へ、母から子へと何億年と受け継がれてきました。このミトコンドリアは独自のDNAを有し、私達の遺伝子とはまったく異なる振る舞いをします。通常、細胞分裂には限界があり(テロメア長に依存するヘイフリック限界)ますが、ミトコンドリアのDNAは環状であり、分裂限界は存在しません。通常、微生物は適切な環境では一定程度の繁殖状態を維持しますので、ミトコンドリアという微生物がなぜに卵子の中で、経年的に減少していくのか、それは環境の悪化と考えています。その環境とは、ミトコンドリアの働きに不可欠な有機物(糖)の減少またはミトコンドリアの構成要素である有機物(アミノ酸〜タンパク質)の減少ではないかと考えています。

 そこで、卵子の劣化に話を戻せば、染色体不分離による数の異常(モノソミーやトリソミーなど)が、紡錘体(微小管)やコヒーシンの劣化で起こり(両方共タンパク質でできている)、ミトコンドリアの減少が受精卵の卵割の早期停止に繋がるなら、それらはすべて卵子内の栄養不足から来るからではないかと考えるのです。

 さらに当然のこととして申し上げるなら、卵子の減数分裂は、胎生期から思春期以降の排卵まで、第一減数分裂の途中で停止したままで、染色体の不分離は決して早期に起こっているのではなく、いざ分離しようとするときにその機能不全が様々な物質不足で起こると考えるのが至当だと思います。

 もう一つ付け加えるなら、極体放出のための細胞内における核の偏位は細胞骨格であるミオシンなどのモータータンパクの働きによりますが、これが欠乏すると極体放出がうまくいかないのではないかと思います。そしてミオシン、中間径フィラメント、微小管といった細胞骨格は全てタンパク質によって出来ており、ここでもやはり細胞内で大切な振る舞いをするタンパク質が重要な鍵をにぎるのです。

 そこで、前述のgap junctionは、顆粒膜細胞と卵子の間にある細胞接合の一種ですが、ここでは分子量1k以下の物質の能動輸送が行われています。ブドウ糖はもちろん、アミノ酸の最小分子であるグリシンから最大分子であるトリプトファンまで、全て分子量は1k以下であるので、エネルギー源や細胞の構成要素となる物質が卵子内に大量に流入しているはずです。さらにミトコンドリアがこのgap junction付近にまで進出してくることも知られています。

 ところでミトコンドリアは、私達の理科の教科書では二重膜構造をした俵のような形が書かれていますが、実はもっと細長く、動き、そして離合集散を繰り返しています。元はといえば原核生物なのですから、自動性があってしかるべきでしょう。

 さてこのような学習から「育卵治療(卵子の劣化防止、卵質向上)」の基本概念を作り上げましたが、ではその治療効果を最大限に発揮するのはいつごろでしょうか。卵子の大きさは、原始卵胞の段階で直径が0.03ミリメートル(1)、排卵周期の月経のころに0.1ミリメートル(2)、排卵頃には0.14ミリメートル(3)くらいになります。また長い成長過程で、卵子が自らマクロピノサイトーシスによる発育を進め(1〜2)、顆粒膜細胞が卵子の周りに付き始め(2)、gap junctionによる能動輸送が機能し始めてから、莢膜細胞によって卵胞が完成する(2〜3)までの約3ヶ月以上、言い換えれば、排卵周期の3ヶ月以上前からがもっとも卵子への栄養供給を効率的に行える期間だと考えました。それを実際に平成28年に入り、採卵成績の経時的変化をデータ化してみると、まさにその仮説とデータが一致したのです。これにより、「育卵治療」は、試行から治療へと進化し、極めて高い再現性を有する段階に入りました。

 さて毛細血管からは通常1割程度の血漿成分が血管から漏出し、リンパ管に回収されていきます。このリンパ管の存在パターンにはいくつか有りますが、通常臓器の深いところにリンパ管は存在します。血管から漏出し付近の細胞に入り、またそこから出た血漿を回収するためです。ところが例えば卵胞には毛細血管は分布していますが、リンパ管は分布していないのです。これの意味するところは、卵胞が血液の「血球」成分、「血漿」成分の全てを必要としているのではないかということです。血漿は水以外にはまずタンパク質を多く含み、他に脂質、糖質、無機塩類を含みます。卵胞にこれらを回収するリンパ管が隣接していないのは、結局、卵胞や卵子の成熟には多大な栄養が必要とされるからではないでしょうか。

 しかもこの卵巣は腹壁から大体深さ8センチにあり、外から温めたくらいでそこまで熱は到達しません。そこで、自律神経支配を利用した正しい鍼の技術、そして当院ではスーパーライザーを使用して、確実に卵巣動脈の拡張を図ります。

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