京都四条烏丸、滋賀栗東小柿。不妊症、突発性難聴、円形脱毛症、顔面神経麻痺、各種運動器疾患で本院新患5,305人(2023末)、年8000人以上の施術実績。

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冷えと不妊

 よく冷えは不妊に良くないと言われます。このまことしやかな俗説は果たして真実なのでしょうか。もし体表温度の差が妊娠を有意に左右するなら、もっと科学的に解明されているのではないでしょうか。また体表温度が低くなくても冷えを感じる方もたくさんおられますが、それはどうなのでしょうか。暖めたらいいのでしょうか。

 私は、ヒトの生殖を考えるだけでなく、生物の進化や発達を視野に入れて考えると、更に視野の広い考察ができると思います。

 同じ哺乳類で、クジラは常に海中にいるのですが、(ヒトが乱獲しないかぎり)絶滅せずに繁栄しています。あの冷たい水の中にいつもいるのに、です。

 「いや、クジラは大きいから大丈夫なんだ」と言われるなら、イルカはどうですか?更に、体調数センチのコウモリはいかがでしょう?体調数十センチのカモノハシ(卵生だが立派に哺乳類)、大きくなっても15センチの猫は?40センチの馬は?3センチのハムスターは?など、反証はいくらでも上がります。彼らは、当然衣服も無く、外界の温度にさらされていますが、絶滅危惧種ではありません。

 彼らは彼らなりに進化の過程で、そのような形態をとっているのですが、問題はそのように小さく、体表から卵巣までの深さが極めて浅い動物たちでさえ、ヒトより長い繁栄の歴史をもっているということです。

 更にわかっている妊娠可能期間が最長のある種のカメは60年間も生殖を行えます。クジラもヒトより長い生殖期間を持っています。どうみてもヒトより不利な条件で生きているのに、どうして彼らの生殖は守られているのでしょう。下記は、ある団体から依頼された文章の書きおろしですが、ご一読下さい。(そのサイトはこれを修正しています)

血管とは

 想像してみてください。60兆個の細胞全てに栄養を十分に行き渡らせることを。血管は一人あたり総延長10万キロメートルにも及びます。それほどの長さで細胞すべてを栄養しています。しかし体中の細胞は、栄養を沢山必要とするもの(新陳代謝が盛んであったり、細胞分裂を活発に行なったりしている)や、自らが細々と働くだけの栄養さえあれば良いものまでいろいろで、必要な酸素や養分は、その組織の機能によって大きく異なります。さて、ヒトを含めたあらゆる生物は、種の保存と繁栄をもっとも大切な使命としてプログラムされています。ならば、生殖器系には多くの養分が必要になるのは当然でしょう。

 血管系は通常、胎児の頃に道筋が出来て成長期にそれらが伸び、思春期にはほぼ完成し、そこから大きく変わることはありません。しかし例外が一つあります。それは子宮です。子宮の血管は、毎周期ごとに伸長と破綻を繰り返す特殊な組織です。たった2週間の間に血管が1センチも伸びるのです。それを毎月繰り返すからには、その場所に極めて多くの養分や血液が必要とされます。

 もう一つ、卵巣を考えてみましょう。卵巣表面は、実はびっしりと血管に覆われています。それは卵子の成長、卵胞の成熟に膨大な栄養が必要だからです。一度に沢山の子供を産むラットなどは、卵巣への血流量を自在に変化させていることが知られています。つまり必要なときには血管を拡張させ、卵巣に大量の血液が流れこむのです。また排卵のたびに起こる卵巣表面の損傷を修復するためにも、極めて多くの養分を必要とします。

自律神経と血管の関係

 何か怖いことなどがあったとき、急に心臓がドキドキしたり、顔が青白くなったり、手足が震えたり冷たくなったりするのは誰しも経験することです。それらは、すべて交感神経が急に優位になったために現れる現象です。

 さて、血管は血液を隅々まで行き渡らせる輸送管の役割を担っていますが、実はそれ自体が収縮と弛緩を行っています。特に中小動脈におけるトーヌス(血液を輸送するための適度な緊張状態)は、血圧にも大きな影響を及ぼし、それはもちろん末梢の組織の栄養状態を左右します。そしてこのトーヌスを作り出しているのが血管を構成する数種の細胞や組織であり、中でも血管平滑筋は自律神経による影響を大きく受けています。もしそこに過緊張状態が起これば、血管は収縮し、その先の組織に栄養不足を起こします。しかもこの変化はすぐさま起こります。これほど自律神経の作用は血管に瞬間的に大きな作用を及ぼすのです。ならば鍼灸が有効に作用するなら、血管の動きを計測できるのでは、と考えるのは自然な流れです。

卵巣や子宮と冷えの関係

 よく冷え性だと妊娠しにくいと言いますが、確かに冷えが強い人は交感神経が過剰に優位であり、血管が収縮しやすいのでしょう。しかし手足やお腹の表面が冷たいことと、子宮や卵巣の冷えや血流不足はまったくイコールではありません。深部体温というものは常にホメオスタシス(恒常性)によって37度程度に保たれているからです。例えば子宮のすぐ前には膀胱がありますが、尿が冷たい人などいないでしょう。また卵巣はお腹の表面からから深さ8センチにあり、それを外部から温めることは容易ではありません。しかしそれは逆に、外気の影響を受けにくくするために深くに存在しているのです。その逆は男性の睾丸です。温めてはいけないものは外へ、冷やしてはいけないものは奥深くへと、何千万、何億年の進化の過程で、生殖器系はこのように位置づけられているのです。

 更に皮下脂肪は断熱材の役割を果たします。女性の体は思春期を経て出産適齢期になると、皮下脂肪を貯めこみ体が丸みを帯びますが、これは生殖器系が外気温の影響を受けにくくするためです。このように卵巣や子宮は、奥深くで大切に守られているのです。もうひとつ例えばポットを想像して下さい。中に熱湯が入っていても外側は冷たいですね。これは中の熱を外に逃がしていないから外側が冷たいのです。容器の断熱性が高ければ高いほど、熱が外に逃げていないので、表面が冷たいのです。皮下脂肪はまさにその役割を担っています。だからお腹の表面が冷たいというのは、断熱機能が正常に働いていることを意味します。ではお腹の表面が暖かければ、それは断熱しても余りあるほどの熱産生があるか、もしくは断熱機能が正常に働かずロスが大きいと言えます。

 結果として言えることは、深部体温は一定。そして外側は冷たい。この二つの事実は、女性の体の断熱機能が正常に働いていることを示しているといえるでしょう。

 従って正しく解釈するなら、強いて言うなら、手足の冷えを引き起こしている中小動脈の収縮が、子宮や卵巣の血管でも同様に起こっていると困るということです。つまり手足の冷えは、あくまでその目安のひとつです。また冷えを感じることで不快を感じ、それがさらに交感神経を優位にしてしまう可能性はあります。

自律神経への働きかけ

 では子宮や卵巣に分布する血流を増やすためには、どのように自律神経に働きかければ良いのでしょうか。大きく2つの方法があります。ひとつは全身的な方法、もう一つは局所的な方法です。

 全身的な方法は、心身をリラックス(副交感神経が優位)させることにより末梢の血液循環を改善する方法です。これについては、鍼灸にはいろいろな考え方があり、どれが最も良いとは言えません。要は施術を受けた方が体感して頂けたらいいのです。治療後に手足がぽかぽかするとか感じていただけたら、きっとリラックスできていると思われます。

 では、卵巣や子宮の血流を更に確実に良くするための具体的な方法はあるのでしょうか。それを可能にするのが局所的な方法です。現在すでにいくつかの手技手法が確立しています。少し例を挙げますと、1,ラットをつかった実験で卵巣動脈の拡張が確認された下腿パルス、2,体外授精における排卵誘発同条件下での採卵数の増加を確認した陰部神経施鍼、3,子宮動脈の抵抗値の減少(つまり子宮への血流量が増える)を証明した中髎穴施鍼、などです。これらはいずれも機器の使用や、特殊な鍼の手技が必須であり、研修や学会などできちんと習得しないと行うことは出来ません。しかし卵巣や子宮の血流増加は全く体感できませんので、確実に有効な手法で施術してもらう必要があります。逆に言えば、それを知っている鍼灸師は、常々学会や研修会などで知識や手法の習得に熱心な鍼灸師だと言えるでしょう。

 さて私達不妊鍼灸ネットワークでは、根本からどのような方法がもっとも効果的かを議論しています。鍼の深さや手技、機器の使い方から始まり、新たな機器の導入効果や有効な経穴の検証に至ります。こうして私たちは、薬剤(ホルモン剤)の目的とは異なる角度から研究し、妊娠しやすい体作りを目指しています。そしてその成果を日本中に広めています。

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