当院に来院される皮膚科疾患で多いのが、円形脱毛症です。これは皮膚科の範囲とはいえ、病態の根本は自己免疫疾患です。自分の毛根部分に免疫細胞が集合し、これが過剰な活動をして、毛髪を脱落させます。皮膚科でも様々な治療法が行われていますが、一概に良くなるとは言えず、また薬剤の副作用を心配して鍼灸に来院される方が沢山おられます。鍼灸治療自体が、病状を悪化させたり副作用を発現したりすることはないので、極めて安心な治療法といえます。また当院では、皮膚に直接お灸をしたりすることは無いので、どうぞご安心下さい。
さて、脱毛症にはいくつかのパターンがあります。その説明と実際の例をご覧ください。
その前に、免疫というのは、本当に複雑な機序で起こります。あらゆる生物は、免疫が無いと死んでしまいます。それほど私達の体をしっかりと守ってくれているのですが、その力が強いために、誤作動が起こると、アレルギーや自己免疫疾患を引き起こします。
アレルギーというのは、外界から入ってくる異物のうち、体に害がないもの(無害な「非自己」)にまで過剰に反応してしまう状態です。自己免疫疾患というのは、自分の細胞(「自己」)を攻撃してしまったり、体の中で作られる特定の物質に炎症を起こしてしまう(自然炎症)疾患です。これらの反応を収拾することは、現代医学的にも非常に困難です。皆様御存知のように、花粉症という敵がわかっている疾患ですら、食い止められていません。まして、敵が自分の細胞や分泌物の場合、それを除去することはできません。
下記、症例の中にも出てきますが、免疫というものは、ストレスを受けたりして自律神経が乱れると誤作動を起こしやすくなります。従って、自律神経をリラックスした状態に置いてやることが大切です。当院ではスーパーライザーを約20年前より使用しておりますが、近年、病院などの脱毛外来にもこれを設置しているところもあります。これは副作用なく、自律神経をリラックスした状態にしてくれます。この機器を併用しすることにより全身状態を調整し、それに加えて、局所の血流改善を図ります。
円形脱毛症(AA)の分類・重症度(日本皮膚科学会円形脱毛症ガイドラインより)
AA の臨床的分類は脱毛斑の数、範囲、形態などにより大きく下記のように分類されています。
(1)通常型円形脱毛症単発型
脱毛症の多くは1ヶ所からの脱毛で始まります。この状態で治癒するものも沢山あります。治療をすれば、多くは2ヶ月間くらいで治癒します。自然治癒する場合もありますが、多くの場合、発見自体が心理ストレスを誘起し、そのストレスが悪化の誘因となる場合もあり、早い回復を望んで来院されます。
(2)通常型円形脱毛症多発型
複数の、多いと十個以上の脱毛が見られるもの。これは二つの治療が必要となります。一つは、現在の脱毛部位の発毛促進。もう一つは新たに生じる可能性がある脱毛部位の早期発見及び早期治療。治療と治療の間のほんの数日の間に新たに脱毛部位が増えている場合があり、非常に注意を要します。周辺の毛髪を採取し、毛根の形状(萎縮毛または棍毛)を観察し、脱毛が広がる可能性があるかどうか、チェックしながら治療していきます。この病態の一部は、次の(3)~(5)に発展する危険性を含んでいます。
(3)全頭脱毛症
頭全体にあまり毛髪が残っていない、もしくは全く無い状態。白髪の残存及び発毛は回復とは認めないのが通常です。ここまでくれば頑固な自己免疫疾患の一症状として考える必要があり、基本的には治癒に相当の期間を要します。ここからは星状神経節への治療が必須となりま
(4)汎発脱毛症
頭髪だけでなく全身の脱毛をきたしています。完全な自己免疫疾患症状が全身に及んでいると言えます。皮膚の局所治療以外は、自己免疫疾患の治療が基本となります。
(5)蛇行状脱毛症
頭髪の生え際が帯状になっている場合。炊いては、多発型の脱毛部位が融合して、不定形且つ大きな脱毛となっています。
(4)、(5)は、(1)~(3)に比し、脱毛から発毛への間隔が非常に長くなります。脱毛が進行している時は、もはや何をしても効なく毛髪は脱落し続ける状態となります。局所免疫療法などで改善した後、再燃時に以前より悪化し、全頭型や汎発型となってしまい来院される方が、過去に沢山おられました。これらの方々は、以後病院にかかられることがないために、病院のカルテにはおそらく「改善」として扱われていると思います。脱毛症は痛みを伴ったり、生命への危険がないために、患者さんは再燃悪化で躊躇なく病院への通院をやめてしまわれるのです。その再発例をどれくらい把握されているのか、少しばかり疑問に思います。
また重症度に関しては、
S0:脱毛がみられない
S1:脱毛巣が頭部全体の 25% 未満
S2:脱毛巣が 25~49%
S3:脱毛巣が 50~74%
S4:脱毛巣が 75~99%
S5 : 100%(全頭)脱毛
及び
B0:頭部以外の脱毛なし
B1:頭部以外に部分的な脱毛がみられる
B2:全身全ての脱毛
の指標が用いられますが、Bに関係なく、S2以上は重症とみなされます。
ところで来院されますと、全頭型や汎発型では、治療開始から一定期間で発毛がすみやかに再開する場合は良いのですが、そうでない場合は、治療間隔を2~4週間毎に伸ばし、経過観察を続けます。そしてある時期から急に発毛が始まる、または脱毛が止まる瞬間が訪れます。この時は自己抗原に対する免疫の誤作動が収束している瞬間と考えられますので、この機を逃さず、その免疫状態の安定化に向けて、また発毛促進治療を積極的に開始します。いずれにしても、スーパーライザーと鍼灸治療の併用で治療します。
髪は、1か月で1センチ伸びますので、例えば初回の治療から1ヶ月経過した時点で1センチ未満の産毛が見られれば、治療開始後の発毛とみなされます。自分で鏡で見ただけで、また手触りだけではなかなかわかりにくい場合は、その部分を拡大接写してご覧頂くことにしています。実際にどのように改善されているかは、症例のページをご覧下さい。
さて次のページは難しいお話になります。が、様々な皮膚科学、免疫学の書物を漁るのですが、円形脱毛症に関するきちんとした医療機関(大学医学部など)が発出している論文などは極めて少なく、つぎのページからの内容は、当院が独自に収集した論文や学習から得られたものです。