最近の日記

もうすぐ小学生

ずっと前に来院されていたTさん。
今日の夜に用事で外に出た時、信号待ちでばったり。
自転車の前と後ろにお子さんを乗せて、、、。

「Tさん?」

「あーっ!先生」

「もうこんな大きくなったん?」

「はい、もう4月から小学生です!」

云々、、、という会話も和やかに、

「先生に会えて良かった!」

と仰って頂いて

「おやすみなさい」

と手を振った。

前の日記で効果を予測すると書いた途端に、
とても想い出深いTさんに出会うとは!

当時のカルテを見ると、、、
Tさんは鍼灸来院前に8回採卵、胚盤胞移植9個。
ところが成績は徐々に悪化しており、来院前の1年間は、
採卵5回で胚移植できたのが、8ヶ月前の1回だけ。
その後は、採卵出来ない、授精しても育たない、
そんな状況で当院にお越しになった。

鍼灸開始からとりあえず3ヶ月は頑張って欲しいとお願いした。
カルテによると、6月開始で9月採卵。
それでなんと!いきなり胚盤胞3個を得た。
今まで成績が徐々に悪化していたので、
医師から移植個数を複数個にするか尋ねられた時、
「いっちゃえ!」(と返事したと、いまだに耳に残る)
と複数個移植し、双子を妊娠、そしてご出産。

これもやはり卵質向上に3ヶ月を必要とした。

当院での卵質向上プログラムは、4、5日毎の間隔で行う。
私の言葉を信じて、みっちり通院された。

その時のカルテには、レーザーは卵巣に、
鍼灸は卵巣と子宮両方への刺激法が記録されている。

現在、他の疾患でレーザーだけと鍼灸併用の効果の比較を行っている。レーザーだけでも効果は認められるものの、鍼灸を併用すると、明らかな効果の増幅を感じられている。

両方共毎回使用しているが、やはりそれが不妊にも必須だと思われる。

そっかぁ〜。

もうすぐ小学生か〜。

時が経つのは早いな〜。

子供の成長は嬉しいが、私としては年の瀬も迫り、

一休さんの

「正月は冥土の旅の一里塚 めでたくもあり めでたくもなし」

という句がじわじわと身にしみる齢となる。

見えないものを予測する

前の日記(子宮内膜の話)で、予測された効果が予測された時期に発現すると書いた。

それを顕著に示す例が多々ある。例えば、卵質の向上だ。

卵子は90〜120日かけて準備をして、排卵する。
その間に、如何に着実に効果のある手法で、
卵子への栄養供給を積み上げるかがたいせつ。
特に排卵の60〜90日前頃が大切。
これは醍醐渡辺クリニックの渡辺先生と意見が一致している。

そういえば先日、IVF大阪、なんば、HORACグループがミトコンドリアの移植を臨床応用するというニュースが出たが、確かに細胞内の代謝を円滑に進めるには、ミトコンドリアの機能が重要な意味を持つ。

ミトコンドリアは、よく俵状で、外膜と内膜を有する二層構造として認識されているが、実はあのような形とは限らない。(とは、数ヶ月前にHORAC理事長の森本先生からお聞きして、その後に調べてみた)

そして卵子に含まれるミトコンドリアの量が減少する事もわかっているので、そうなると解糖に支障を来す事も容易に想像できる。

しかしなぜ、ミトコンドリアが減少するのだろう。
ミトコンドリアのDNAは環状なので、私たちの鎖状とは異なる。
となると、テロメアは存在せず、ヘイフリック限界も無いはず。
となるとミトコンドリア自体にはテロメア短縮によるアポトーシス、つまり寿命は存在しないのではないか?
実際に、生殖を単細胞から見つめ直すと、例えば原核生物は無制限に分裂を行うので、ミトコンドリアは環境さえ整えば、その繁殖は密度効果に依存するのではないか?

などと、思考は迷路に入り込む。

が、その減少はとりもなおさず、卵子内の有機物の量が減少し、ミトコンドリア自体の生命活動が機能低下に陥るからだだと考えるのがす素直かも知れない。
ミトコンドリアは、解糖の一部をになうものとして有名だから、糖の分解に目を奪われがちだが、ミトコンドリア自体が私たちのものとは異なる環状のDNAを有する別の生き物なのだから、彼らに餌をやらないと、当然死活問題となる。つまり彼らには糖だけでなく他の物質も必要となるわけだ。

ところで卵子の回りの顆粒膜細胞との間の細胞接合(gap junction)においては分子量千以下の物質輸送が行われている。そして森本先生とのお話で衝撃的だったのはミトコンドリア自体がそのジャンクション付近まで移動してくるというものだった。つまり彼らはそれだけ飢えているのかもしれない。ミトコンドリアもその構造維持のためには、私たちの細胞と同じ種類の物質が必要である。それはつい数ヶ月前だったか、ミトコンドリアが細胞内のタンパク質を取捨選択して取り込んでいる事が証明された。もしかしたら、細胞接合を通して流入した糖やアミノ酸を早くに取り込もうとしているのではないか。そう考えると、ミトコンドリアの減少とやはりつじつまが合う。

さて、ミトコンドリアの餌をどのようにして与えるかであるが、その手法はまたの機会に譲るとして、今回は予定通りの効果が現れた方を紹介する。

この方のAMHは0.1未満、つまり計測不能という事だ。来院前に3回採卵され、胚盤胞は取れず。そして鍼灸に来院され2ヶ月を経過した時の採卵も期待すべき結果が得られなかった。しかしその次、つまり開始から4ヶ月経過したときに、胚盤胞を得てご懐妊。そして今妊娠10週を迎えられている。

つまり鍼灸開始から3、4ヶ月目の採卵が一つの転機となる。
同様の経過をたどられた方が、つい最近でお二人おられる。うちお一人はAMHが0.2であった。AMHに関してもまだまだ書き足りないが、また機会があれば書く事にする。

さてと、、、「卵子の質が良くなります」というなら、それは3、4ヶ月で変化が現れなくてはならないということだ。そうなると、体外授精反復不成功で来院された方が、鍼灸でご懐妊となった場合、その頃の妊娠数が、他の月数に比して優位に高くなくてはならない。しかし、肩が痛いとか、腰が痛いといった治療なら、効いているかどうかは2、3回も治療すれば、多くの場合それを実感して頂ける。しかし「卵子がよくなる」などと誰が実感出来るのか。だからこそ、私たちは確実に効果が上がる方法を一所懸命に追求するのである。そんな思考を持ち始めてはや10年が経過した。婦人科の問題はすぐに効果が出ないのだから、気が長くなるような臨床研究を経て、実際の手法の精査が可能となる。開業して2、3年ではまったく不可能。

上手く行かなかった時、それは偶然ではなく、自分の努力不足、思考の浅さのせいかもしれない。医療を切り開くには、常にそういう自責を感じなければ、前には進まないのである。

実際に、鍼灸来院前と治療開始後とでは、胚盤胞の到達率、そしてその移植時の着床率に極めて大きな有意差が現れる(データは待合室にある。また私の講演で他の先生に配っている)。これを更に増大させる事こそが私たちの目標だ。

今年は、11月に大阪と名古屋でその理論と実技を詳しく講義した。年が明けたら仙台で講義をする。

私たちの不妊鍼灸について、私は仲間達と共に全国的な普及啓発を進めている。もし不妊鍼灸を受けようと思われるなら、その院のブログ等で、それらを受講された先生の院を探される事をお勧めします。

不妊に限らず、鍼灸院を選ばれるときには、鍼灸師歴(絶対に年数を見て下さい)と記述(どこかの教科書から抜粋したような概論は、学生にでも書けます。一言一言に実現性信憑性があるか精査して下さい)をしっかり見極めて選んで頂きたいと願う。

渡辺先生といい、森本先生といい、鍼灸に理解があり生殖医療のトップクラスの先生といろんな話しが出来る環境である事を感謝し、それを最大限患者さんに還元せねば、その立場がもったいない。

子宮内膜改善で胚移植準備

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4ヶ月前に、胚移植をしたいが子宮内膜が厚くならないという方が来院された。聞くと他の鍼灸院に100回行かれたが、変化が無いと。

多額の治療費を支払われて、効果もなく、
時間ばかりが経過して、凍結胚も保存のまま、
意気消沈しておられた。

子宮内膜が厚くならないのは、主に3つの理由がある。

エストロゲンの分泌不足。
エストロゲンレセプターの不足。
子宮血流の不足。

年齢(48才7ヶ月)からすると、もっとも可能性が高いのはエストロゲン不足だろう。
エストラーナを張っても厚くならないとしても、それがすなわち血流不足だけとは限らない。さらにレセプター不足は殆ど無いと言われているし、ましてこの方、以前は9ミリ位だったから。

それは例えば血管自体が分泌するエンドセリンは、外部から投与しても、所期の血圧変動効果が得られない事からも類推できると思う。足りないからと足しただけで元来の効果がでるとは限らない。ホルモンと言うのはそんな簡単な作用機序ではない。

されば、この方、どうして厚くならないか、それは外部から入れたエストラーナによるエストロゲン類似作用では、エンドセリンと同様の問題が起こるのでは無いかと考えた。エストラーナ貼付無しでまずは内膜の改善を試みた。

が、やはり血流も上げておくに越した事は無い。

100回も鍼灸を受けられていたのだが、よくもまた鍼灸に来ようと思われたと感心しながら、当院の技術力を示さねばならないと上記の理論でもって臨んだ。

当院にはエコーがある。2ヶ月経過してそれを見たところ、おそらく7ミリ台にまで回復していたので、急遽婦人科へ行って頂いた。(医師の経膣エコーと、私たちが使う経腹エコーでは、見え方がまったく異なるので、その計測には諸種条件を考慮した換算が必要である)

医師は当分休むように言っておられたが、内診すると8ミリ近くまで厚くなっていたので、翌月から移植準備に入ろうということになった。

鍼灸は東洋医学と言われるが、東洋医学理論だけを振り回しても、こういった状況を速やかに改善する事はできない。脈などの主観に頼る治療法には当たり外れが大きすぎる。やはり婦人科をしっかり学び、その人に足りないものを、科学的に補足する技術を備えなければならない。私たち不妊鍼灸ネットワークでは、それを真剣に追求し、答えをだしている。

よくあちこちに、鍼灸はホルモンバランスを整えるとか書いているが、では実際にどのようにバランスが整っているのか、データを取っているのだろうか。
内膜が厚くなるというのなら、きちんとエコーを備えて観察しているのだろうか。
良い卵が育ちますというなら、どの程度の改善があるのか、大きな分母で検証しているのだろうか。

なにかしら良い言葉だけをならべ、自分では検証もせず、まるで言葉だけをパクる。またそういうところに患者さんが引き寄せられ、そうして効果がないままお金と時間を無駄にしている人が極めて多い。過去、100人に近いほどの人が、他の鍼灸院から転院して来られているが、その人達の言葉からそれが伺い知れる。

この方は、鍼灸による卵巣動脈拡張法(注1)と(内臓体壁反射利用による)卵巣消炎法(卵巣術後疼痛に使う)(注2)、交感神経抑制法(注3)、またレーザーによる星状神経節及び子宮動脈照射を毎回継続し、今月も続けて8ミリの内膜を得て、いよいよ胚移植へと向かわれる。

当院では、他にも様々な手技手法があるが、その人の状況に応じて最適な組み合わせを選び適用する。その組み合わせがぴったりはまると予定通りの効果が、予定通りの時期に発現する。それを見た瞬間は、いつも身震いするほどの興奮を覚える。なぜならその方法は、私たちがネットワークの仲間達と議論を通して開発してるからだ。その患者に対しているのは私1人でも、私の後ろには全国津々浦々の心を通わせた仲間達がいて、彼らと、そして当院のスタッフと闘っているのだ。

移植直前、移植後はまた治療が微妙に変化する。
最善を尽くし、あとは祈るばかりだ。

注1 文部科学省助成研究で、ラットの卵巣動脈拡張25%を証明した手法。
注2 卵巣嚢腫、卵巣摘出等術後疼痛における治癒促進手技
注3 東北大学医学部(だったかな?)におけるラットの睡眠時間延長による交感神経抑制を証明した経穴付近の神経支配を利用。

当院では、他にもさまざまな手技を、一人一人に合わせて綿密に組み立てて応用し、出来るだけ確かな効果を期待する。

H27、12、20追記
「技術は嘘をつかない!!」(「下町ロケット」最終回より)
明日とうとう、この方は遠いところで移植を受けられる。
この祈りよ、頼むから届け!