日々の診療の様子をお伝えします
今日は、母子間免疫(受動伝達免疫の一種)について。
これは、いろいろな学びから、自分の備忘録を兼ねて書いています。
最近は、もしそれがみなさまの何かのお役に立てるなら、という意味でブログに載せることにしています。
女性が妊娠して、しばらく経つと母体内のIgGが胎盤を通して胎児に供給されます。IgGは抗体の中でも比較的小さいもので、FcRnと言われる分子の力を借りて、母親の血管壁をすり抜け、外に出ていきます。そして胎児の血流に直接供給されるというとても効率のいい供給方法を取ります。
FcRnは、IgGが血管壁を通り抜けるときに作用するもので、ドラえもんのアイテムで言えば、う〜ん「通りぬけフープ」って感じでしょうか。実際はあんなリングではないのですが。
さて、胎児は母親から供給されたIgGのおかげで、その抗体については母親同等レベルの免疫力を獲得していきます。そうして血中IgG値がすんすん上昇して誕生を迎えます。
しかし抗体は1種類ではありません。もう少し分子の大きな抗体、例えばIgA(二量体)は、誕生後に母親の母乳を介して乳児に供給されます。IgAは、そのまま腸まで進み、そこで微生物やそれ由来の毒素などをブロックし、吸収を阻害し、便と共に排出されるように働きます。
乳児は、誕生前から自分でも抗体を産生し始めます(IgM)。しかし誕生してしばらくすると、胎内で得たIgGの減少と母乳から供給されるIgAの減少に伴い、徐々に免疫における抵抗力が低下していきます。これは自分自身での抗体産生が軌道に乗るまでの一時的なものなのですが、その頃に色々な感染症に罹患しやすくなります。
これは正常なプロセスなのですが、問題は双胎妊娠などで予定日より早くカイザで出産に至ったような場合です。
赤ちゃんのIgG値はまだ低く、しかも母乳を吸う力もなく、外界に出てきます。この時免疫は極めて脆弱な状態におかれ、様々な感染症に晒されます。また正期産に比して、免疫能の獲得に時間がかかります。だからNICUなどで出来るだけ清潔な環境に置かれて安全に成長を待たねばなりません。
(写真はエッセンシャル免疫学より)
思うのですが、クラススイッチが行われる前のIgMは五量体であり大きな分子なので、胎内で受け取ることは不可能なのでしょう。また各抗体より先に作られねばならないので、これだけは胎内で生産開始していますね。そうすると、それがクラススイッチして各抗体に変化するのはその後になり、また厳密に機能し始めるための親和性成熟をしたりするのに、生まれてから結構な時間を要するのだと思ってみたり。
今度の日曜日は東京で講演します。婦人科のみならず様々なシーンに於いて免疫がどのように作用するか、また私達の介入できる部分はあるのか、新たなスライド約60枚(他計250枚で6時間)で解説します。定員に達したようですので、頑張ってきます!
昨日の日曜日は、大きな本屋さんで、免疫学の本を片っ端から読み漁りました。
その中で、前の日記で触れた「性交渉による免疫寛容」の記述も出てきました。
ART胚移植前に夫婦生活を持った夫婦と持たなかった夫婦で結果を比較したところ、両者に着床率に有意差は出ませんでしたが、流産率が有意に変わりました。
もちろん、夫婦生活を持った夫婦の流産率が低下したのです。
やはり前の日記にかかれていることは、正しいようです。
そこで通常の妊娠では、当該性交渉で受精した場合、その交渉の日から6、7日目で着床するのですが、そのデータでは妊娠8週頃までの流産率が低下していたのです。
つまり免疫寛容な状態は、4週くらい継続するということになります。
現象的にはそうなのですが、理論的にはどうなんでしょう。
ちょっと考えてしまいます。
そこで、婦人科と免疫について、もっとも詳しく書かれた書物を購入したので、一層勉強したいと思っています。また詳しくわかったら書きますね。
その本は、なんと一冊21000円もするのですが、体の各部位で起こる免疫応答について、極めて詳しく解説しています。
通常、免疫の本といえば、T細胞とかNK細胞とか、つまり細胞生物学的な解説なのですが、この本は体の各部位毎に起こる免疫反応を解説しています。つまり組織学的な免疫の本なのです。そのような本は、非常に書きにくいと思います。なぜなら、各部位で起こる反応は実に様々で、部位ごとのストーリーが必要だからです。
しかし臨床的にはこの方が勉強しやすいので、理論原則を学んだ後には、これで勉強するのが本当に楽しみです。
当院のサイトを完全リニューアルしようとしています。様々な疾患群に関する知見として、あちこちの鍼灸院で異口同音に書いているような事は一切書かずに、最新、最高の知見で網羅しようと考えています。
しかし、先日来院された方が、、、「他の鍼灸院と比べてみたら、こっちは書いていることが多くて読むのがしんどくて他へ行った」との事。う〜ん。それって悲しいですね〜。結局、そこでは所期の効果が得られずに、こちらに来られたのですが、頑張って書くとこうなっちゃうんかな〜と悩むこと、ひとしきり。
でも、やっぱりみなさんへの情報提供はアップデートしておきたいので、書くことにしますって、、、、。
このブログ長いですわ〜。フェイスブックをしていない方向けに、その内容を転載しているのですが、覚悟してください。くじけたら読まなくてもいいです。笑
胚盤胞を移植した際、その胚盤胞は紛れも無く生きています。それがなぜ子宮に入った途端に、生命活動を停止してしまうのでしょうか。もしくは子宮との連絡が絶たれてしまうのでしょうか。染色体異常という原因は避けては通れませんが、Rh因子の不適合流産から見られるように、免疫の異常反応が一定含まれることは、定説となっています。しかし、例えば花粉症という敵がわかっているアレルギーですら、今なお抗原をブロックしたり、マスト細胞の破綻を防ぐ医薬が開発されていないのですから、子宮という閉ざされたところで起こっている免疫反応が解明され、その対処法が見つかるのはどれほどの時を待たないと行けないのでしょう。しかも、それが解明されたからといって、ひところ行われていた配偶者リンパ球移植といった冒険的な方法から更に強力な方法に進化した時に、副作用はないのか、とても慎重にならざるを得ません。相手は子宮内に存在する赤ちゃんの基なのですから、実験的な失敗は許されません。生殖専門医らも、安全性と効果の狭間できっともどかしい思いをされていると思います。
さて星状神経節へのレーザー照射は、臨床的に様々なアレルギー疾患、自己免疫疾患に効果があることを観察しています。その対象は、化学薬品であったり、花粉などの自然界の物質であったりします。また自己免疫疾患としては、脱毛症やリウマチなどに医師も採用しています。しかしこの効果には個人差があり、効果が出やすい人と、出にくい人に別れます。しかしもともとのアレルギーに対して明らかに効果があった方は、なにかしら着床率が高いような傾向があります。
以前、ある産婦人科から、夫婦生活を多く営む夫婦の流産率が低いというデータが出ました。これは精子が何度も子宮内を通過しているうちに、途中で崩壊する精子の断片(DNA?)に対する免疫寛容な状態が子宮に起こり、受精卵に対する免疫の過剰反応が起こりにくくなると言われています。いわゆる減感作に似た状況が作られているのかもしれません。しかし実際の免疫寛容な状態は、もっと複雑な経路で起こっているようです。
ところで、免疫に大切な役割を担う細胞がいくつかあります。代表的なものを挙げると、NK細胞、マクロファージ、T細胞、B細胞、樹状細胞、などなど。この中でT細胞には、ナイーブ、サプレッサー、ヘルパー、キラーといったものの他に、レギュラトリーというものが発見されました。これは坂口志文(大阪大学免疫フロンティア研究センター)氏がとてつもない時間をかけて、サプレッサーT細胞とは似て非なるこのT細胞の存在を証明したのです。このレギュラトリーT細胞は、日本語で制御性T細胞と呼ばれていますが、抑制性(サプレッサー)T細胞と混同しないようにして下さい。さて、ここでなぜ、この細胞にこだわるのかといえば、坂口氏のたゆまぬ努力に尊敬の念を抱かずにはいられないこととは別に、彼がここに着目したきっかけが「妊娠という非自己細胞移植のメカニズム」であったからです。ということはもちろんのこと、この制御性T細胞が妊娠に大きく関わることは言うまでもありません。
前に子宮内に配偶者のリンパ球移植について、少しだけ触れましたが、神はここでも私達の生殖に手を差し伸べてくれていたのです。精液は分離すると精子と精漿(精子を含まない上澄み液)に別れます。この「精漿」には実は大きな働きがありました。精漿が子宮内に入ると、子宮内で父親抗原特異性制御性T細胞が増殖し、妊娠における免疫寛容を引き起こしている可能性が極めて高いことが示唆されたのです。しかもあの「殺し屋」NK細胞ですらCD25を表面に備えて制御性NK細胞として免疫寛容にかかわっているらしいのです。(富山大学産婦人科斎藤ら)この論文は当院にありますので、更に詳細をご覧になりたい方はお申し出下さい。
そうしますと体外受精にしても人工受精にしても、精漿は殆どもしくは全く注入されませんから、この免疫寛容が働かないことになります。ということで何が変わるかということですが、いろんな生殖補助医療を受ける際にも、医師任せではなく自分たちで夫婦生活を持った方が着床率が上がるわけです。当院の最高齢妊娠46才の方が、胚移植前に「もうやることは全てやってきた。他になにかできることはないでしょうか」と質問されました。私は「性交渉をして下さい」とお勧めしました。「そうですね、そういう夫婦の基本的な事を忘れていました。では移植の前にします」と言われ、夫婦生活の後に移植を迎えられましたら、見事にご懐妊となったのです。この一例でもって何を証明できるわけではないですが、人としての基本的な活動が、いかに大切であるかを物語っていると思います。生殖に限らず、私達の体は、想像を超える緻密さで仕上がっていることを、こうした新たな発見の度に、驚嘆をもって受け止めざるを得ません。
もうひとつ、着床前診断を行った受精卵と行わなかった受精卵(共に胚盤胞)では、明らかに妊娠率が変わります。では、染色体異常が起こっている受精卵は、胚盤胞からすぐに勝手に生命活動を停止するのでしょうか。しかも子宮が受精卵の存在を感知して反応する前に。
もしかしたら染色体異常胚は、何かしらのシグナル(化学物質)を出していて、それを子宮が感知すると、妊娠を拒否する(着床しない)、または中断する(流産)のではないかと思えます。免疫反応を始めとして、生体のシグナル授受は、極めてレスポンスが早いものがたくさんあります。ですので、子宮内でこのような受精卵と子宮のやり取りが行われていても、なんら不思議ではないのです。
「着床しない」という現象と「流産する」という現象は、時間的に極めて隣接している部分があり、実は原因はこのように近似しているかも知れません。
さて昨今、受精卵の染色体検査がわずかずつ普及してきています。染色体検査で異常なしと判定された胚盤胞の着床率はおおよそ70%程度と言われています。検査を受けていない胚盤胞の着床率は医療施設により差があります。それは凍結基準や、通院者の年齢層に大きく左右されますので、それだけを以って医療機関の優劣を決めることはナンセンスですが、各医療機関の数字(40〜50%)よりは、やはり染色体正常胚の着床率は有意に高いのは事実です。
しかしどうして100%ではないのでしょう。70%が妊娠するとして、残りの30%はなぜ着床しないのでしょうか。女性の生活習慣やストレス、その他いろいろな要因があると言われていますが、私たちは「免疫寛容が起こっていない」つまり「免疫的な着床障害」が一定割合を占めていると考えています。そして、私達のところに通院中の染色体正常胚盤胞の妊娠率は今のところ100%です。但し、お一人は18、21、23、性染色体のみのFISH検査で、その後は流産されましたので、これは他の染色体異常の可能性も高いと思われます。そして平成28年4月時点で妊娠率に限って言えば「5/5(5人全員妊娠)」の妊娠率が、今後どのように変化していくか、これは着床障害を緩和するはずだと考える私達の治療が、真に有効かどうかを証明してくれるでしょう。
(しかし問題はここで終わりではありません。この制御性T細胞はインターロイキン6やIgE抗体同様、時としてひどい悪さをします。東京でそこまで触れられるかどうか、東京にご参加の皆さんを免疫マニアにしたいと思います。笑)
そしてもっとも大切なこと、では私達がこの事象をどう受け止めて、どのように臨床に反映すれば良いのか、鍼灸の介在する余地はあるのか、これはとても大切で語られたことが無い領域だと思います。それも東京で話せたらいいなと思います。