No.5147の記事

述懐

昨年来院された40代の近所にお住まいの女性の話。

一度治療して2回目に来院された時、どうもおかしいと思ったので、病院へ行ってMRIを撮ってから再来するようにお伝えした。
が、その後一向にお見えにならないので、一年以上も経過して忘れていた。
その方が不意に、その後の経過だけ報告にお見えになった。

聞くと、その後に接骨院を3軒ほど回って、半年以上かけて治療したのだが徐々に悪化し、最後は一晩中寝ていられないほど疼き出した。そこで私が勧めていた病院へ行って、MRIを撮ってもらったら腱板断裂で、すぐに入院手術となったらしい。

その方曰く、「最初から先生の言われる通りにしておいたら、こんなに苦しまずに済んだのに、その時は治るだろうと勝手に思い込んでいて、自分で回り道をしてしまった。本当にあのアドバイスがあったおかげで病院も迷わずに選んで、そしてその後、早く良くなる事が出来てよかった」と、わざわざ伝えに来て下さったのだ。

普通、こういう事をわざわざ言いに来て下さるのは勇気が要ると思う。

しかし接骨院は私たちより運動器疾患をしっかり診られるはずなのに、3軒共にきちんと精査を勧めず、一体何をやっていたのかと疑ってしまう。

私も肩関節のいろんな病態を沢山診て来ているので、これはおかしいと思ったのだろう。肩の疾患は、リウマチ等の全身性のものでなければ、諸種の徒手検査で大まかに原因が推測できる。とても微妙な状態だったのだろう、そのようにカルテには記載していある。1回しか治療せずに、その後すぐに病院を勧めるなどというのは、実際には滅多に無い事なのだ。

同じように、思い出す方がある。その方は肩こりで来院された。しかし通常の肩こりとはレベルがまったく違う。なにか変な予感がした。

「保険証は今、もっておられますか?」

「はい。」

「では紹介状を書きますので、すぐに内科に行って下さい。」

「はぁ、わかりました。」

という次第で、その足で内科に行ってもらった。

そして内科医からの返答が来た。

「肝がん第3期、即日京大に入院」

といった内容だった。

後日、同じ会社の方が偶然治療にお越しになり、その肩こりの患者さんの話しになった。やはりその後、お亡くなりになったらしい。初診鑑別の重要性を身にしみて感じ、その方のご冥福をお祈りしたのを思い出す。

最近、接骨院でも鍼灸院でも、修行を経ずにすぐに開業している人が多いと聞く。彼らは、どこで指導を受けたのだろう。指導を受けながら、いろんな患者さんを数多く経験しなければ、そういうスキルは身に付かない。ベテランのような年齢でも実は卒業したての脱サラ組という施術者も数多い。HPなどで資格取得年が書いてないのはそういう場合が多い。

勤務して指導を受けながら修行すると、通常ひとりでなら10年かかる事が、2、3年で到達出来る。もちろんその為には厳しい事もあるが、時間短縮なのだから当然であろう。

患者さんが言われる事(主訴)だけ聞いて、考えようようともせず治療するだけでは、まるで稚拙と言わざるを得ない。

治療を受けるのに、良い所を見分けるのは至難だと思われる。