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見えないものを予測する

前の日記(子宮内膜の話)で、予測された効果が予測された時期に発現すると書いた。

それを顕著に示す例が多々ある。例えば、卵質の向上だ。

卵子は90〜120日かけて準備をして、排卵する。
その間に、如何に着実に効果のある手法で、
卵子への栄養供給を積み上げるかがたいせつ。
特に排卵の60〜90日前頃が大切。
これは醍醐渡辺クリニックの渡辺先生と意見が一致している。

そういえば先日、IVF大阪、なんば、HORACグループがミトコンドリアの移植を臨床応用するというニュースが出たが、確かに細胞内の代謝を円滑に進めるには、ミトコンドリアの機能が重要な意味を持つ。

ミトコンドリアは、よく俵状で、外膜と内膜を有する二層構造として認識されているが、実はあのような形とは限らない。(とは、数ヶ月前にHORAC理事長の森本先生からお聞きして、その後に調べてみた)

そして卵子に含まれるミトコンドリアの量が減少する事もわかっているので、そうなると解糖に支障を来す事も容易に想像できる。

しかしなぜ、ミトコンドリアが減少するのだろう。
ミトコンドリアのDNAは環状なので、私たちの鎖状とは異なる。
となると、テロメアは存在せず、ヘイフリック限界も無いはず。
となるとミトコンドリア自体にはテロメア短縮によるアポトーシス、つまり寿命は存在しないのではないか?
実際に、生殖を単細胞から見つめ直すと、例えば原核生物は無制限に分裂を行うので、ミトコンドリアは環境さえ整えば、その繁殖は密度効果に依存するのではないか?

などと、思考は迷路に入り込む。

が、その減少はとりもなおさず、卵子内の有機物の量が減少し、ミトコンドリア自体の生命活動が機能低下に陥るからだだと考えるのがす素直かも知れない。
ミトコンドリアは、解糖の一部をになうものとして有名だから、糖の分解に目を奪われがちだが、ミトコンドリア自体が私たちのものとは異なる環状のDNAを有する別の生き物なのだから、彼らに餌をやらないと、当然死活問題となる。つまり彼らには糖だけでなく他の物質も必要となるわけだ。

ところで卵子の回りの顆粒膜細胞との間の細胞接合(gap junction)においては分子量千以下の物質輸送が行われている。そして森本先生とのお話で衝撃的だったのはミトコンドリア自体がそのジャンクション付近まで移動してくるというものだった。つまり彼らはそれだけ飢えているのかもしれない。ミトコンドリアもその構造維持のためには、私たちの細胞と同じ種類の物質が必要である。それはつい数ヶ月前だったか、ミトコンドリアが細胞内のタンパク質を取捨選択して取り込んでいる事が証明された。もしかしたら、細胞接合を通して流入した糖やアミノ酸を早くに取り込もうとしているのではないか。そう考えると、ミトコンドリアの減少とやはりつじつまが合う。

さて、ミトコンドリアの餌をどのようにして与えるかであるが、その手法はまたの機会に譲るとして、今回は予定通りの効果が現れた方を紹介する。

この方のAMHは0.1未満、つまり計測不能という事だ。来院前に3回採卵され、胚盤胞は取れず。そして鍼灸に来院され2ヶ月を経過した時の採卵も期待すべき結果が得られなかった。しかしその次、つまり開始から4ヶ月経過したときに、胚盤胞を得てご懐妊。そして今妊娠10週を迎えられている。

つまり鍼灸開始から3、4ヶ月目の採卵が一つの転機となる。
同様の経過をたどられた方が、つい最近でお二人おられる。うちお一人はAMHが0.2であった。AMHに関してもまだまだ書き足りないが、また機会があれば書く事にする。

さてと、、、「卵子の質が良くなります」というなら、それは3、4ヶ月で変化が現れなくてはならないということだ。そうなると、体外授精反復不成功で来院された方が、鍼灸でご懐妊となった場合、その頃の妊娠数が、他の月数に比して優位に高くなくてはならない。しかし、肩が痛いとか、腰が痛いといった治療なら、効いているかどうかは2、3回も治療すれば、多くの場合それを実感して頂ける。しかし「卵子がよくなる」などと誰が実感出来るのか。だからこそ、私たちは確実に効果が上がる方法を一所懸命に追求するのである。そんな思考を持ち始めてはや10年が経過した。婦人科の問題はすぐに効果が出ないのだから、気が長くなるような臨床研究を経て、実際の手法の精査が可能となる。開業して2、3年ではまったく不可能。

上手く行かなかった時、それは偶然ではなく、自分の努力不足、思考の浅さのせいかもしれない。医療を切り開くには、常にそういう自責を感じなければ、前には進まないのである。

実際に、鍼灸来院前と治療開始後とでは、胚盤胞の到達率、そしてその移植時の着床率に極めて大きな有意差が現れる(データは待合室にある。また私の講演で他の先生に配っている)。これを更に増大させる事こそが私たちの目標だ。

今年は、11月に大阪と名古屋でその理論と実技を詳しく講義した。年が明けたら仙台で講義をする。

私たちの不妊鍼灸について、私は仲間達と共に全国的な普及啓発を進めている。もし不妊鍼灸を受けようと思われるなら、その院のブログ等で、それらを受講された先生の院を探される事をお勧めします。

不妊に限らず、鍼灸院を選ばれるときには、鍼灸師歴(絶対に年数を見て下さい)と記述(どこかの教科書から抜粋したような概論は、学生にでも書けます。一言一言に実現性信憑性があるか精査して下さい)をしっかり見極めて選んで頂きたいと願う。

渡辺先生といい、森本先生といい、鍼灸に理解があり生殖医療のトップクラスの先生といろんな話しが出来る環境である事を感謝し、それを最大限患者さんに還元せねば、その立場がもったいない。