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病態把握の重要性

晴れ

昨日、遠い所からお母さんに連れられて7才の男の子が来院されました。主訴は難聴。男の子曰く、左耳の聞こえ方が悪いとのこと。また若干のめまい(おそらく動揺感)もあるとのこと。その前日、当日の2回、耳鼻科において聴力検査をされたのですが、左耳の聴力が低下していたので、お母さんが西洋医学だけよりも出来ることをしていこうと、連れて来られたのです。

当院でも、簡易ですが聴力検査をします。そこで、急遽計測してみると、どうにもお母さんの仰るような聴力低下が認められない。全音域で、有意な左右差も無く、正常範囲内なのです。

翌日(今日)、県立病院で再検査をされるとの事でしたので、もう一度その検査をしてから治療の必要性を考えてみましょう、とお答えして、診察だけで治療は行いませんでした。

そして、本日県立病院での検査後にお電話を頂きました。また検査表もファクスして頂きました。確かに聴力は完全に回復しており、まためまいも終息しているようで、やはり治療の必要性は認められませんでした。

ここでもし当院に聴力検査機器が無かったらどうでしょう?

聴力は回復しているのに、7才の子供に鍼をして(おそらくそれなりに苦痛を伴うでしょう)、そして翌日の結果で回復していたら、私はすごい名医となったことでしょう。

しかし、今目の前にいる人が、本当に病んでいるのか出来る限りの手を尽くして診察し、そして必要に応じた治療を行うことは、患者さん側から見れば当然の期待です。しかし、それが行われるには、相応の設備と豊富な経験が必要となります。

私は、この家族にとって名医になる代わりに、この幼子の立場に立つことを優先しました。私がこの男の子だったら、不必要に鍼なんか受けたくないもの!!

それと同じことが骨盤位(逆子)の治療でも言えます。

まずエコーで診察しますと、産婦人科で逆子と言われて来院される方のうち、1〜2割程度の方は鍼灸に来られた時点で逆子ではないのです。自然回転ですでに治っているのです。

ですが、ほとんど(全てといってもいいくらい)の鍼灸院ではエコーは無く、医師に言われたまま、その患者さんの状態がどうであるのか確かめようともせずに、ただ闇雲にお灸や鍼をします。

そして、次の検診で治っていればそれは治療効果と誤認されることになります。ここでまた名医の誕生です。苦笑

鍼灸で逆子のデータを出している文献がいろいろありますが、治療直前のエコー画像による確認は行われていません。それで何がデータなのでしょうか?

そして、治療の必要性が全くないにも関わらず、鍼灸院の設備不足、鍼灸師の経験不足(胎児診察法すら知らない)により、鍼をされ、お灸をされる。時には内出血、火傷をおこすでしょう。そこに自責の念がわかないのかと、不思議でなりません。

断言します。

私は鍼灸の効果は非常に大きな物だと考えていますが、まだまだ未開発な領域であると考えます。しかし、そうであるからこそ、治療は出来る限り客観性に基づいて行われなければならないはずです。出なければ、いつまでたっても鍼灸が国民から信頼される医療として、その地位を確立することは不可能でしょう。